噂のナンパ島に潜入

「脱チェリーボーイ」! いざ、新島へ!

1980年6月某日。神川県立K高校2年のAはクラスメートの山下から、とんでもない情報を手に入れた。山下が言うには、「どんな男も同年代の女子とSEXできる楽園のような島があるらしい」と。女子と付き合ったこともなく、ましてや童貞のA。生唾を飲み込みながら、股間が固くなっていくのを感じた。次の瞬間、Aは思った。「これでGOROともおさらばだ」と。GOROとは彼が愛読する雑誌で、アイドルの水着グラビアが豊富で、もっぱらそちら方面でお世話になっていたものだ。だが、先月号の特集「童貞喪失全角度チェック」にすら、その島の情報は出ていなかった。

島の名前は「新島(にいじま)」。東京都に属する伊豆七島の一つで、浜松町の竹芝桟橋から高速船なら2時間20分で着くが、貧乏高校生のA達はフェリー船で約10時間。船酔いするヤツらも続出。一方、元気なA達、特に山下は、夜10時の出港後すぐに船内でナンパを開始した。船内を見回すと雑誌「Fine」から抜け出したような女子高校生や女子大生がデッキでワイワイ集まっている。「ナンパして~~」との吹き出しが彼女たちから見えるようだった。1978年当たりから大学生の間では、少しづつ新島の事が噂になっていたらしいが、高校生のA達に降りてくるのに2年もかかったことになる。

でかしたぞ、山下!

山下が4人組をゲットした。A達も4人なので、最高の組み合わせだった。すでに時刻は朝の7時。南の島の日差しがまぶしい。少し眠そうな女の子4人組。明らかに女子高生だ。山下の涙ぐましい努力というか、性欲がこの偉業を成し遂げたのだ。
8時半に船は着いた。A達と女の子達の8人は、民宿に入れる午後1時まで一緒にビーチに行くことにした。荷物を持ったままだが、海の家で着替えができるらしい。海の家を探し、パラソルとビーチマットを借りて、A達は、女の子の着替えを待った。
「来たっ!」山下が、叫んだ。他の3人も海の家の方を振り返る。4人の女の子が、オールビキニなのだ!Aは、すでに鼻血が出そうな気分だった。「か、かわいい。」初登場のB君が小声でつぶやく。山下は、すかさず立って、女の子に向かって手を振っている。山下を見ると、すでに股間に膨らみが。「なにもかも早い!」とAがボソリ。Aは勇気をだして「何か、食べたり飲んだりしない?」と女の子達に尋ねた。リーダー格の一人が「そうだね。」と返した。Aは、すぐさま立ち上がり、「じゃあ、俺が買ってくるよ。みんな、何がイイ?」。それぞれからオーダーを聞いて海の家に向かおうとすると、「私も行くよ!」と、リーダー格の彼女が。「ドキッ!」Aは、激しい鼓動を感じた。
彼女の名前はヤスコ。4人は都内の青○学院大学高等部だと言う。紛れもないシティガールだ。「A君達はどこから来たの?」、ヤスコの問いに思わず「湘南」と、Aは答えたが、実は厚木だった。とても湘南とは呼べないエリアだが、まあ良いとしよう。「じゃあ、サーフィンとか得意なんだ?」と矢継ぎ早に質問が。「まあまあ」と返すA。「え~っ、かっこいい」と、ヤスコ。Aは陸(おか)サーファーだった。陸サーファーとは、ファッションだけのサーファーだ。オフショアのポロシャツに、ファーラのパンツ。ベルト通しにジャラジャラとキーホルダーをぶら下げている。よく見ると5~6本のキーの中に運転免許も無いのに、ワーゲンのキーが付いている。
飲み物と食べ物を買い、仲間達の元に戻った。10分も経たないのに、全員が打ち解けムード。乾杯でさらに盛り上がり、Aもヤスコに好きな音楽を尋ねた。「ユーミン大好き。最近は松田聖子も」。「サザンはどう?」「いいよね。でも、ちょっとやらしいかな?」Aは山下に「ねえねえ、ユーミンのカセットあったよね?」と尋ねる。「かける?」と山下。ヤスコを見ると、大きくうなずいている。これは、めちゃくちゃイイ雰囲気、イイ流れだ。
ついに、そのときが来た。

ビーチでの楽しい時間を過ごし、お昼過ぎに解散。山下は、女の子達の泊まる民宿に19時に迎えに行く約束を取り付けた。表向きは、一緒に花火をする計画だ。
19時が来て、彼女たちを迎え、花火が始まった。二人づつペアになって、打ち上げ花火、線香花火。生まれて初めてと言っていいほど楽しい時間が過ぎていく。ビーチの夜は、A達のような学生でいっぱいだ。ざっと100組は超えていたと思う。時間の経過と共に、Aとヤスコは、抱き合ったり、キスをする彼らの脇をすり抜けて、ビーチの外れの岩陰に向かった。ヤスコが少し震えているのが感じ取れた。もちろん、Aも震えるほど興奮していた。二人の時間は、フルスピードで過ぎ去っていった。

朝が来た。

朝のビーチを散歩する山下とA。波打ち際にクラゲのように漂うゴムたち。10年後、この「楽園」の一夜を、どんな感じで思い出すのだろう?
触った顎ひげのチクチクが、いつもより硬く思えた。
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