大漁旗が揺れた夜
1980年7月12日(土)、田町の大学に通うトールは、暑さで目を覚ました。午後2時。ボーッと昨日のことを思い出す。昨日ヤツは、3つのナンパを成功させた。1日に3人だ。脳内に大漁旗の揺れを感じながら、3人の料理方法を考えている。端から見るとクズ野郎の定義に当てはまるように思えるが、ヤツはいたって普通の大学生だ。勉強もできるし、将来性もありそうだ。いや、本人曰く、将来性はあるらしい。つまり、つまりだ。彼を取り巻く友達連中は、み~んなこんな感じなのだ。再びつまり、今の時代はラテンな感じなのだ。そう、ブラジルやイタリアだ。
昨夜、トールは友人の長谷川と渋谷のディスコに行くことを約束していた。どうでもいいことだが、クラスに二人いる長谷川のうちゲスい方の長谷川だ。いつものように8時ぐらいに入店し、少し踊り、チークタイムでめぼしい女にアプローチする。金曜日の夜は入れ食いが普通だ。この日も案の定、K立女子大学のY子という娘をゲットした。5段階評価の4だ。いや、3.5ぐらいかも。ゲットはしたものの、お持ち帰りまでは気が進まない。長谷川は、どう見ても評価2から3の娘を持ち帰るらしい。「おまえは、ただの野獣だな」とトール。終電が近くなり、二人が帰ろうとすると、K立女子大のY子がトールの電話番号をねだった。「明日の夕方会えるなら電話して」とY子に番号を渡した。
野生の勘が働いた
実は、この日の夕方、トールは定期券を買うために駅の窓口に並ぼうとしていた。ふと見ると、女子が二人最後尾に並んでいる。テニスラケットを持った二人の女子大生。この日、トールもテニスサークルの帰りでラケットを持っていた。一人が「4.5」レベルの娘だ。トールは自然に身体が動いた。忍びのような小走りで二人の娘の後ろに並んだ。野生の勘が働いた。明日から運賃が改定になるため、この日の窓口は長蛇の列。十分、その娘を観察する時間があると、トールはほくそ笑んだ。列が進むにつれて、「4.5」の娘は幾度となくチラチラとトールを気にしながらもう一人の娘とテニスの話をしている。次に買いたいラケットのことが話題の中心だ。そうこうしている内に「4.5」が「ボルグが持ってるラケットって何だっけ?」ともう一人に尋ねたが、彼女も知らないらしい。すかさず、トールが「ドネイじゃないですか?」と声をかけた。振り向くなり「4.5」が、「そうそう、それ、ありがとうございます。」と言いながら笑った。「釣れた!」。その後は、テニスのこと、自分たちのサークルのこと。女子大サークルなので、男性がいないとか。いろいろ。結局、トールが来週に予定していた友達とのテニス練習に行きたいと言い出したので、電話番号を渡した。
実は、この日の夕方、トールは定期券を買うために駅の窓口に並ぼうとしていた。ふと見ると、女子が二人最後尾に並んでいる。テニスラケットを持った二人の女子大生。この日、トールもテニスサークルの帰りでラケットを持っていた。一人が「4.5」レベルの娘だ。トールは自然に身体が動いた。忍びのような小走りで二人の娘の後ろに並んだ。野生の勘が働いた。明日から運賃が改定になるため、この日の窓口は長蛇の列。十分、その娘を観察する時間があると、トールはほくそ笑んだ。列が進むにつれて、「4.5」の娘は幾度となくチラチラとトールを気にしながらもう一人の娘とテニスの話をしている。次に買いたいラケットのことが話題の中心だ。そうこうしている内に「4.5」が「ボルグが持ってるラケットって何だっけ?」ともう一人に尋ねたが、彼女も知らないらしい。すかさず、トールが「ドネイじゃないですか?」と声をかけた。振り向くなり「4.5」が、「そうそう、それ、ありがとうございます。」と言いながら笑った。「釣れた!」。その後は、テニスのこと、自分たちのサークルのこと。女子大サークルなので、男性がいないとか。いろいろ。結局、トールが来週に予定していた友達とのテニス練習に行きたいと言い出したので、電話番号を渡した。
ファンファーレが鳴り響くディスコ帰りのトールは、電車の中で、昼間の定期券の「4.5」のことを思い出していた。「やっぱ、あっちだよな」とつぶやきながら、中央線中野駅で下車、アパートへ。ちょっと小腹が空いた感じだったので、コンビニに寄って帰ることにした。駅からアパートまでは何軒かコンビニがあるが、ビールが欲しかったので家に一番近いコンビニに向かった。ピンポーン、コンビニのドアが開く。店の中には客が一人。カーリーヘアの女だ。トールは彼女とは逆の方向のビールに向かって動いた。ちょうどお弁当コーナーの前で、彼女の顔を確認できた。「出たー!5。間違いなく5」トールの脳内にファンファーレがなった。どうやら彼女もお弁当系を買いたいらしい。でも、深夜なので商品が不足ぎみ。あまり良い物が残っていない。トールも、迷っていた。彼女の手が、のり弁に伸びようとした時、とっさにトールものり弁に手を伸ばした。一瞬早く、トールがのり弁にリーチした。トールは、のり弁に触れるやいなや手を下げた。「あっ、ごめん。どーぞ」と、トール。すると彼女が「ごめんなさい、いいんですか?」「いいです、いいです。僕はこっちにしますから」と言ってトールは、焼きそばを手にしてレジに向かった。「急いで店をでなきゃ」と思った。またまた、野生の勘が働いた。店を出て左側の端にタバコの自販機があった、そこでタバコを買いながら、彼女が出てくるのを待った。「左に出てくれ。頼む!」と思いながら。彼女が出てきた。左に。タバコを買い終わった風のトールが振り向いて彼女を発見する感じを演出した。彼女と眼が合った。「あっ!」と彼女。「いまから、メシですか?僕もです」と、トール。
「さっきは、ごめんね。なんか取っちゃったみたいで」砕けた感じだ。
「いやいや、ぜんぜん。あの~、もし良かったら一緒に僕のうちで食べません?」
「え~?、、、、、、近いの?」
「3分」
「行こっかな~」
「うん、おいでよ」
美大に通う、クリエイティブで翔んだ感じの彼女だった。
「今日は大漁だな」と、つぶやくトール。
「なに?なんか言った?」と彼女。
「いやいや、ぜんぜん。あの~、もし良かったら一緒に僕のうちで食べません?」
「え~?、、、、、、近いの?」
「3分」
「行こっかな~」
「うん、おいでよ」
美大に通う、クリエイティブで翔んだ感じの彼女だった。
「今日は大漁だな」と、つぶやくトール。
「なに?なんか言った?」と彼女。
1980年7月12日1:53分の出来事だった。